サロンにとっての「マニュアル」とは、いわゆるサロン内の法律と道徳のようなもので、そこで働く人たちは少なからず「サロンマニュアル」を意識しながら日々働いていることでしょう。
とはいっても、昨今は業務委託サロンなどが多く存在しているので、道徳的に使われているというよりはサロン内の「ルール」のようなカタチで使用されているのかもしれません。
この記事では、「縮毛矯正」を通してサロンにおける「マニュアル」について書いていきますので、今すでにある技術マニュアルと合わせてご参考までにしていただければと思いますので、よろしくお願いいたします。
サロンマニュアルの必要性
はじめに、縮毛矯正の結果とは残酷なほどにハッキリと分かるものであって、言い換えれば「誤魔化しのきかないもの」ともいえるでしょう。
クセが伸びたか、残ったか。
シンプルすぎて残酷で、しかも判りやすく明快です。
たとえば、施術メニューの失敗の中でも、カットの「左右差の違い」や白髪染めの「染め残し」のようにわかりやすく失敗が表面化されるものは他にもありますが、これらは「チェック」を厳重にすることであらかた防ぐことが可能です。
しかし、縮毛矯正の失敗に関してはチェックを厳重にしたから防げるものではなく、お客様一人一人の髪質にあった「見極め、見立て」が失敗の発生の有無を左右するといっても過言ではありません。
そんなこともあってか多くの美容師は縮毛矯正について、「安定、安心」を望んでいるようにも見えますし、事実サロン内でも「縮毛矯正ならこの人!」というスタッフが存在しているのではないでしょうか?
縮毛矯正の技術レベルを上げる方法は様々ありますが、サロンができる取り組みとしては、メーカーからの臨店講習を受講することが挙げられるかもしれません。
しかし、メーカーからのマニュアルだけに頼ってしまうと、メーカーの思惑通りの「幅の狭い対応力」しか身につかないことになりますし、サロンのノウハウの蓄積はおろか美容師一人一人の技術応用力のレベルアップは叶わないことでしょう。
それだけに施術メニューの「マニュアル化」とは説明書を読むようなものではなく、経験や気づきの「記録」のようなものとして、サロンの財産として築き上げていくものだと確信できるはずです。
では、サロンバイブルとして「マニュアルづくり」をするならば、どこを重要視する必要があるのかご説明していきます。
メーカーの言う、「薬剤の強さ」とは信用できるのか?
縮毛矯正は通常、1剤の還元剤と2液の酸化剤によって化学反応を起こしますが、あまり縮毛矯正が得意ではないサロンの場合は、還元剤の種類は「マイルド」や「ハード」単純に分けているかもしれません。
ただ、このマイルドやハードのように言葉と雰囲気だけで使用薬剤を決めてしまうと、全く適材適所の施術方針とは言い難いので、結果としてもあまりお客様に喜ばれる結果にはならないはずです。
なぜなら、あの「ハードとかマイルド」などは大体の場合、「アルカリ濃度」を変えているだけと予想でき、結局は還元の深さをいじっているだけだといえるからです。
ちなみに「還元の深さ」とは、端的に申せば波状毛のようなリッジの効いたクセ毛に重要な指標であって、クセ毛→ストレートに変換させる強さを調節するだけのツールでしかありません。
とはいっても、還元の深ささえ不足スペックにならなければ、「クセは伸びる」のでお客様から最低限の合格点をもらうだけなら問題はないはずです。
ただし、最低限の合格点をもらってそれでいい時代はすでに終わろうとしていて、情報化社会の今日では比較が容易にできてしまうので、中長期的なサロン運営には合格とは言い難い点数なのかもしれません。
薬剤放置時間はどうやって決める?
技術的なお話になりますが、みなさんは何を根拠に「薬剤の放置時間」を決めているのでしょうか?
メーカーからの仕様書通りのタイムを守る方もいらっしゃいますし、サロン内での統一のタイムというのも存在しているのかもしれません。
ただ残念ながら、美容師が対症療法的に「ケースバイケース」で薬剤放置時間を決めていることは、あまり耳にしないというのが業界で最近よく聞くことです。
それは、髪質の分類と還元剤の特徴を把握しきれていないために起こっていることだと思いますし、基本的なケミカルの情報を一度詰め込んでみる必要があるといえます。
では適切な放置時間の決め方ですが、分かり易くよく使用される方法としては、薬剤を塗布した毛髪の「色」を観ることが一つの指標となることでしょう。
というのも、還元剤とアルカリの作用で毛髪自体が膨潤することで、パッと見でも髪の色が「飴色」のような艶っぽくみえると思います。
これは毛髪が膨潤したことで光が当たると、透明感というか透けて見えるようになります。
この飴色になっていれば、還元反応としては十分に還元されているので、過還元のリスクはこの変化をレッドラインとして調整できれば、あらかた防げるのではないでしょうか。
ただ最適な還元具合はこれよりももっと深い観察力が必要なので、またの機会に書かせていただきます。
アイロンプレスに技はあるの?
縮毛矯正の工程のなかでマニュアル化しやすいのは、アイロンプレスの工程かもしれませんが、ヘルプのアシスタントによる失敗が目立ってしまう部分であることは、スタイリストにとって頭の痛いところでしょう。
なぜなら、アイロン操作は観るべきところが多く、クセの伸び具合を見るだけでも集中力の必要なところだといえます。
そのうえ、180℃にもなるアイロンを顔の周りで操作するので、細心の注意が求められますし、事故として起きてしまうとお客様に大きな怪我を負わせてしまうことになります。
サロンとしても「アイロンプレス」をするときは、とくにマニュアル化した技術で施術に望んで欲しいと思うのは、しょうがないことでしょう。
しかし、残念ながら平均化されたマニュアルではお客様に実感いただけるような、圧倒的な他店との仕上がりの差を手に入れることは困難なはずです。
ではどのようなマニュアルにしたほうがいいのか?
「目的を言語共有」したマニュアルが必要
たくさんの方法や考え方があると思いますが、ご紹介したいのは「目的を言語共有」したマニュアル化を進めるべきだとご提案いたします。
「目的の言語共有」とは、つまり担当スタイリストがイメージする仕上がりの細部の共有と言い換えられるかもしれません。
例えば、トップをぺちゃんこにしたくないから、プレス圧を逃がしてステムを上げて根元を起こすようにプレスして!など目的を伝える指示が簡潔にできることが最大の利点です。
美容師に限らず、人は同じ意味のことでも人によってチョイスする言葉からはじまり、文章の組み立て方まで異なっているのが普通です。
しかし、アシスタントヘルプとしての仕事のように、分の主張ではなくあくまで他の人のサポートを仕事としてを任されているうちは、担当スタイリストの描いているイメージをシンクロさせなくてはなりません。
でないと、スタイリストとアシスタントそれぞれの施術を施した部分によって、お客様は違和感を感じることでしょうし、とても気持ちのいいものではないはずです。
本来は「アイロンプレス」に関しては仕上がりのバランスが取りにくいので、ヘルプなしの一人施術が望ましいのですが、サロンの環境的にどうしてもヘルプと一緒に施術する際は、「マニュアル化」されたイメージを思い浮かぶような共通言語を用いてコミュニケーションを取ることが、サロンが用意できる最高のマニュアルといえるのではないでしょうか。
縮毛矯正のマニュアル化はそれでいい?のまとめ
縮毛矯正はヘルプを使っての施術の中では、平均化・標準化することが難しいメニューであることはご周知の通りですが、実際は長時間の施術時間が必要なこともあって、多くのサロンで二人施術でのマニュアル化を進めているのが一般的だろうと考えられます。
しかし先ほども申したことですが、マニュアル化するにあたって重要なことは、技術の統一ではなく「イメージを表現する、言語の統一」が最もすり合わせが必要であって、仕上がりの完成度にも大きく付与してくることだといえるでしょう。
マニュアル化を「規格」ではなく、「共有」として捉え直せると、きっとさらに大きな進歩が待っているはずです。
私たち美容師にとって「生産性」はとても意識せねばならないものですが、ただ闇雲に「量」だけ増やしてしまうと、経営者だけが儲かって美容師は実利を得ずらい構造になってしまいがちです。
最後に、私たちの仕事は流作業のように同一企画のものを大量に生産する業態ではありません。一人一人にお似合いの「デザイン」を提供し、満足度に対して付加価値を増やしていく仕事なのです。
平成の美容業界におけるビジネスモデルは、皮肉にもコロナウィルスによって壊されていくでしょう。そしてコロナ収束以降は先ほど申し上げたように、「生産性」の捉え方が変わってくるはずです。
なぜなら、人々の行動原理は3ヶ月が基準だと言われていますが、それはとうに過ぎて新しい習慣こそが生活のベーシックに置き換わることが予測できますし、現在進行形で変化しています。
何が言いたいかというと、人々の美容室を利用する頻度は間違いなく減ります。
しかも一番気付きにくい1〜2割減で減ることでしょう。
さらに、引き続き人手不足も継続するでしょうから、業界では過去に使い古された言葉ですが、「付加価値」について見つめ直す時期なのかもしれません。
『マニュアル化』と『生産性』は相対関係にあるものなので、時代環境に合わせたマニュアル化を技術からの視点だけではなくブラッシュアップしていきたいものです。
やはり「マニュアル」とは、サロンにとって絶対不可欠の大切なものと言えますね。