回復美容とは|髪に特化したアピアランスケア

回復美容とは|髪に特化したアピアランスケア

病気の治療に伴って髪が抜けたり、治療後に生えてきた髪質が今までと変わったりしたとき、多くの方が不安を感じ、誰かに相談したいと思うのではないでしょうか。

私の髪は、これからどうなるのだろう。
どうしたらいいのだろう。

髪がもう一度生えてくることは分かっていても、元の髪型に戻るまでにどのくらいの時間がかかるのか、その途中をどのように過ごせばよいのかという情報は、残念ながらまだ身近に多くはありません。

回復美容とは、病気の治療に伴う髪の変化に対して、髪の成長タイムラインに合わせた選択肢を時系列で示し、その人がもう一度、自信を取り戻して元の生活へ戻るまでを後押しする、髪に特化したアピアランスケアです。

すぐに治療前と同じ髪へ戻れなくても、その時々にできることがあるので安心してください。

髪が伸びるまで、ただ我慢する。

人の目を気にしながら、生活が元に戻る日を待ち続ける。

もう、それだけが答えではありません。

今の髪の長さや状態に合わせて、今できるおしゃれがあります。今の自分を少し好きになれる方法があります。

回復美容は、その選択肢を本人と、本人を支える人たちへ渡すためのものです。

アピアランスケアとは

アピアランスケアとは、病気の治療に伴う外見の変化によって生じる苦痛やストレスを軽減し、その人らしく日常生活を送れるようにするための医療的・社会的な支援です。

治療によって起こる脱毛や肌、爪などの変化に対して、患者さんの周りには医療従事者や行政、学校、家族をはじめとする多くの人が関わっています。

医療用ウィッグや胸部補整具などの購入費を助成する制度も、全国の自治体で急ピッチで整備が進められています。

こうした支援は、治療を受ける本人が、外見の変化によって社会とのつながりを失わないために重要な役割を果たしています。

一方で、治療後に髪が生え始めてから、本人が自分の外見に再び自信を持ち、元の生活へ戻るまでには、医療や制度だけでは示しにくい選択肢があります。

それが、美容の領域です。

回復美容は、髪が生え始めてから生活を取り戻すまでのタイムライン上に、美容だからこそ示せる体験型の選択肢を体系化したものです。

なぜ「回復美容」という考え方を始めたのか

回復美容の始まりは、抗がん剤治療後に生えてきた、ケモカールと呼ばれる強いクセ毛に悩む方への縮毛矯正でした。

抗がん剤治療後の再生毛は、治療前とは異なる髪質で生えてくることがあります。

強くカールしたり、チリチリとした手触りになったり、一本一本が違う方向へ動いてまとまりにくくなったりします。

私は縮毛矯正を専門としてきたため、その技術によってケモカールの悩みを軽減できると考えました。

最初は、それだけでした。

ケモカールに縮毛矯正を施し、扱いやすい髪に整える。縮毛矯正によって髪の悩みを解決できれば、それで美容師としての役割は完了すると思っていました。

しかし、施術を重ねるうちに、これだけで終わりではないと感じるようになりました。

髪をまっすぐにすることが、本当のゴールなのだろうか。

社会人であれば、もう一度自信を持って職場へ戻ること。

学生であれば、病気を抱えた生徒としてではなく、普通の一人の生徒として学校生活へ戻ること。

家族や友人と出かけること。

朝、鏡の前に立ったときに、

今日も頑張ろう。

と思えること。

そこまで含めて初めて、元の生活を取り戻したと言えるのではないかと思ったのです。

美容技術によって髪を整えるだけではなく、その人が帰りたい生活へ戻るまでを考える。

そこから、回復美容という考え方が始まりました。

「これから私の髪は……」に隠れている本当の不安

医療従事者やケースワーカー、学校関係者の方から、患者さんに髪のことを相談されても、ウィッグのパンフレットを渡すくらいしかできないという歯がゆさを聞くことがあります。

私の髪は、これからどうなりますか。
いつ頃、生えてきますか。
元の髪質に戻りますか。
ウィッグはいつ外せますか。
学校や仕事では、どうしたらよいでしょうか。

医療の立場からは、髪はもう一度生えてくることを伝えられます。

行政の立場からは、ウィッグなどを購入するための支援制度を案内できます。

学校の立場からは、治療中や復学時の学習環境を整えることができます。

どれも必要で、正しい支援です。

それでも、本人の「私の髪は……」という言葉の奥には、もう一つの問いが隠れているのではないでしょうか。

私は、この先どのように元の生活へ戻っていけばよいのだろう。

本人が求めているのは、髪が生えてくるという事実だけではありません。

自分の髪がこれからどのように変化していくのかという見通し。

ずっとウィッグを使い続けなければならないのかという不安。

仕事や学校へ戻るときに、どのような姿で人に会えばよいのかという迷い。

そして、その時々に何を選べるのかという具体的な答えです。

解決できないのではありません。

これまで、美容の選択肢が十分に確立されていなかったのです。

回復美容がアピアランスケアに新たに加えられるもの

回復美容は、アピアランスケアと目的を同じくするものです。

その中でも、髪に特化し、髪が生え始めてから本人が自分の外見に再び自信を持つまでを、時間の流れに沿って考える実践領域です。

治療後の髪は、ある日突然、治療前の長さや髪質に戻るわけではありません。

少しずつ生え、少しずつ伸びていきます。

その過程で本人の生活も変化していきます。

治療を終える時期。

自宅で過ごす時期。

職場や学校へ戻る時期。

友人と会う時期。

ウィッグを外したいと思い始める時期。

その一つひとつの節目に合わせて、美容には異なる選択肢があります。

髪が短い時期には、短い髪だからこそ似合うヘアスタイルがあります。

治療の影響によって前髪や頭頂部の長さが不足している場合には、トップピースを取り入れることで、より自然で素敵なヘアスタイルを作れることがあります。

髪と頭皮の状態が整えば、カラーや白髪染めを検討できるようになります。

さらに時間が経過し、髪の長さと状態が整ってくれば、ケモカールを扱いやすくするための縮毛矯正を選べることもあります。

大切なのは、すべての人に同じ施術を勧めることではありません。

本人の髪の長さや状態だけでなく、その人がどのような生活へ戻りたいのかを確認しながら、

  • 今できること
  • まだ難しいこと
  • 少し先にできるようになること

を整理していくことです。

回復美容では、美容技術から人生を考えるのではありません。

本人が戻りたい生活を先に考え、そのために今必要な美容技術を選びます。

美容が回復させるものは「自信」

医療は病気を治療します。

美容が病気を治すことはできません。

それでも、美容には回復を後押しできるものがあります。

それは、自信です。

社会へ戻るための自信。

学校へ再び戻るための自信。

もう一度、あの人に会うための自信。

鏡に映る自分への自信。

髪が決まらないから、今日は出かけたくない。

この感覚は、病気の有無にかかわらず、多くの人が一度は経験しているのではないでしょうか。

髪は、単なる身体の一部と言い切れないところがあります。

人に会うとき。

学校へ行くとき。

仕事へ向かうとき。

毎朝、鏡の前で自分と向き合うとき。

髪は、その日の気持ちに深く関わっています。

髪型が整うことで、不安が少し軽くなることがあります。

鏡を見たときに、もう一度笑顔になれることがあります。

美容が自信を与えるのではありません。

本人が自分の力で自信を取り戻していく。そのきっかけを、美容技術によってつくることはできます。

直接病気を治すことはできなくても、元の生活へ戻ろうとする人の背中を、美容は少しだけ後押しすることができます。

なぜ回復美容にはタイムラインが必要なのか

治療が終わったあと、多くの方が髪のことでこう悩みます。

あと何か月我慢すれば、元に戻るのだろう。
半年後にはウィッグを外せるのだろうか。
1年後には、治療前の自分に戻っているのだろうか。

髪が抜ける可能性については、治療前から説明を受け、気持ちを整理していた方もいるでしょう。

それでも、実際に髪を失い、新しく生えてきた髪が治療前とは異なっていれば、元の自分に戻りたいと思うのは自然なことです。

しかし、本当に必要なのは「元に戻る日」だけを待つことではありません。

今の自分として、どのように生活を取り戻していくか。

そこに答えが必要です。

髪は少しずつ生え、少しずつ伸びていきます。

それに合わせて、本人の生活も少しずつ動き始めます。

仕事へ戻る日。

学校へ戻る日。

友人と会う日。

旅行や修学旅行へ行く日。

ウィッグを外してみたいと思う日。

その一つひとつの節目に、髪は大きく関わります。

そして、それぞれの成長過程には、その時期だからこそ選べる髪型や美容技術があります。

短い髪にも、素敵に見えるヘアスタイルがあります。

前髪やトップの髪がまだ足りなければ、トップピースという選択肢があります。

髪の状態が整えば、カラーや縮毛矯正を検討できる時期も訪れます。

つまり、髪は伸びるまでただ待つものではありません。

その時々に、今の自分にも素敵になれる選択肢があります。

だから回復美容では、髪の長さだけではなく、時間の流れの中で「今できること」を考えます。

タイムラインとは、

  • 今できること
  • 今はまだしない方がよいこと
  • 次に選べるようになること

を整理し、本人だけでなく、医療・教育・行政・家族も共有するための「これからの見通し」です。

患者さんが安心するのは、治療前の髪へ戻る日が分かったときだけではありません。

今日にも選択肢がある。

そう分かったときです。

本人だけでなく、周囲の人にも選択肢を渡す

髪のことで困っているのは、本人だけではありません。

患者さんから相談を受ける医療従事者。

復学する児童や生徒を迎える学校。

支援制度を設計する行政。

そして、本人の一番近くにいる家族。

それぞれの立場の方が、何かしてあげたいと思いながらも、髪のことについて何を答えればよいのか分からずにいます。

解決する意思がないのではありません。

これから生えてくる髪について、美容の視点から示せる選択肢が共有されていないのです。

私には分からない。
何を伝えればよいのか分からない。

そのまま立ち止まってほしくありません。

だから回復美容では、髪の成長段階に応じてできることを整理し、本人だけでなく、本人を支える人たちにも渡せる形にしていきます。

本人にも、周囲の人にも、同じタイムラインと同じ選択肢を届ける。

それも、回復美容の役割です。

医療従事者の方へ

患者さんから髪について相談されたとき、その場ですべてを説明する必要はありません。

髪の成長段階と、その時期に検討できる美容の選択肢が分かる資料があれば、本人へ手渡すことができます。

「髪は生えてきます」という説明に加えて、

今はこの段階です。
次には、このような選択肢があります。

と伝えられるだけでも、患者さんの不安は軽くなるはずです。

髪について医学的な答えを求めているように見えても、本当に知りたいのは、これからどのような生活へ戻っていけるのかという見通しかもしれません。

回復美容は、忙しい医療従事者の方が、目の前の患者さんへ安心してもらえるための選択肢となります。

行政の方へ

現在のアピアランスケア支援では、医療用ウィッグや補整具などの購入支援が重要な役割を果たしています。

その先に、社会へ再接続するための美容上の選択肢を加えることで、制度を利用する方の生活復帰を、さらに後押しできる可能性があります。

治療中の外見を補うための支援だけでなく、自分の髪とヘアスタイルを少しずつ取り戻していく過程も、治療後の生活には必要です。

患者として過ごす時間から、一人の社会人や学生として生活する時間へ。

その移行を具体的に後押しする選択肢が、これからのアピアランスケアには必要とされているのではないでしょうか。

教育関係者の方へ

治療を終えた児童や生徒が学校へ戻るとき、治療による髪の変化は、学校生活のさまざまな場面に影響します。

体育。

部活動。

着替え。

校則。

修学旅行や宿泊行事。

ウィッグを使用していることへの不安や、周囲の視線への心配は、本人にとって大きな負担になり得ます。

本人、保護者、養護教諭などが事前に話し合い、どのような配慮が必要なのかを個別に整理できれば、安心して学校生活へ戻りやすくなります。

多くの子どもたちは、特別扱いを求めているわけではありません。

できることと難しいことを理解し、その中で普通の一人の生徒として過ごしたいと願っています。

回復美容は、治療後の髪に対してできることを示すだけではありません。

その選択肢を、本人が普通の学校生活へ戻るための具体的な配慮へつなげていきます。

元の生活に戻るとは

元の生活に戻ることは、治療前とまったく同じ髪型に戻ることだけではありません。

社会人であれば、自信を持って職場へ行けること。

学生であれば、病気を経験した生徒としてではなく、普通の一人の生徒として友人たちの中へ戻れること。

家族や友人と出かけられること。

会いたかった人に、もう一度会えること。

朝、鏡を見たときに、自分の姿を受け入れられること。

患者としての自分だけではなく、普通の自分を取り戻すこと。

それが、回復美容の考える生活の回復です。

回復美容が目指す未来

回復美容が社会に定着した未来では、

髪が元通りになるまで、何年も我慢しなければならない。

という時間が少なくなります。

髪が生え始めた時期から、その人の状態に合わせて選べる美容技術があります。

まだ短い髪を、その人に似合うヘアスタイルとして整えることができます。

トップピースを使いながら、ショートヘアを楽しむこともできます。

髪の状態が整えば、カラーや縮毛矯正などによって、白髪やケモカールの悩みを軽減することもできます。

治療前と同じ髪になるまで生活を止めるのではなく、その時々の自分で、少しずつ生活を取り戻していく。

どこに住んでいても、必要な知識と美容技術につながれる。

洋服を選びに街へ出るように、身近な場所で回復美容を受けられる。

ウィッグを使うことも、眼鏡をかけることと同じように、特別なことではないと受け止められる。

そして、髪のことで誰かに相談したとき、

分かりません。

だけで終わらず、

今は、こういう選択肢があります。

と答えが返ってくる。

そのような社会を、回復美容は目指しています。

回復美容は、選択肢を渡すためのアピアランスケアです

回復美容は、すべての髪の悩みをすぐに解決するものではありません。

治療内容や体調、頭皮の状態、髪の長さや毛髪体力によっては、まだ施術を行わない方がよい時期もあります。

それでも、

  • 今できること
  • 今はしない方がよいこと
  • 次にできるようになること

を伝えることはできます。

「髪が伸びるまで我慢してください」という一つの答えだけではなく、その時々に選べる方法を渡す。

本人には、これからの自分の髪と生活の見通しを。

医療・教育・行政・家族には、本人へ渡せる新しい選択肢を。

回復美容は、髪をきれいにするだけの美容ではありません。

今の自分も好きになりながら、自分の力で自信を取り戻し、元の生活へ戻るための、髪に特化したアピアランスケアです。

そしてもう一つ。

患者さんの周りで、その人のために何かをしたいと思っている人たちに、

分からない。
何を伝えればよいのか分からない。

そのまま立ち止まってほしくありません。

本人にも、本人を支える人にも、これからの見通しと選択肢を渡す。

回復美容が、それぞれの立場の人にとって新しい答えの一つになればと考えています。

今の自分にも、選択肢があります

髪が伸びるまで我慢するだけが答えではありません。今の髪の状態と、戻りたい生活に合わせて、今できることを一緒に考えます。

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