抗がん剤治療が終わり、少しずつ髪が生え始めた。
髪が戻ってきたことに安心する一方で、治療前にはなかった強いクセや、細さ、白髪の増加、毛量の違いに戸惑う方も少なくありません。
このクルクルした髪は、いつかは元に戻るのだろうか。
以前と同じ髪型に戻れるのだろうか。
縮毛矯正をかけてクセを整えると、治療前と同じ髪になるのだろうか。
この記事では、抗がん剤治療後に生えてきた髪がどのように変化していくのか、そして「髪が元に戻る」という言葉の意味をどのように考えればよいのかを、美容師の立場からお伝えします。
【結論】治療前とまったく同じ髪へ戻るとは限りません
抗がん剤治療後に生えてくる髪には、強いクセ、細さ、硬さ、白髪、毛量や伸び方の違いなどが現れることがあります。
時間の経過とともに治療前の髪質へ近づく方もいますが、変化の大きさや、その変化が続く期間には個人差があり、すべての方が同じ経過をたどるわけではありません。
また、回復美容は治療前の髪質へ完全に戻すための医療ではありません。今ある髪の長さ、毛量、クセの出方、毛髪体力を確認し、その時期の生活を少しでも過ごしやすくするための、髪に特化したアピアランスケアです。
治療後10カ月前後でも、髪の状態によっては、ケモカールによる負担を減らすために縮毛矯正を行える場合があります。一方、CISTAが自毛で成立する髪型を作るための縮毛矯正の目安としているのは、ラストケモから2年前後が経過し、トップの髪が耳に届く長さになった頃です。
抗がん剤治療後の髪に起こる変化
抗がん剤治療後に生えてくる髪は、治療前と異なる状態になることがあります。
- 以前より強いクセやうねりが出る
- 髪が細く、コシがなくなる
- 反対に、硬さやゴワつきを感じる
- チリチリしやすく、広がりやすくなる
- 白髪の割合が変わる
- 前髪やトップなど、部分によって伸び方が違う
- 以前より毛量が少なく感じる
治療後に現れる強いクセは、一般に「ケモカール」と呼ばれることがあります。
ただし、すべての方にケモカールが現れるわけではなく、現れ方も一様ではありません。
後頭部に強いクセが出る方もいれば、前髪やもみあげが細くチリつく方、頭全体に細かなうねりが出る方もいます。同じ方の髪でも、頭の場所によって太さやクセ、密度が異なる場合があります。
そのため、「治療後は必ずこのような髪になる」「何年経てば必ず元へ戻る」と、一つの経過に当てはめることはできません。
時間が経てば、治療前の髪質へ戻るのでしょうか
治療後に生えてきた髪のクセや質感が、時間の経過とともに変化し、治療前の状態へ近づいていく方はいます。
一方で、強いクセや毛髪の細さ、毛量の変化が長く続く方もいます。
髪は毎月少しずつ伸びます。現在毛先にある髪と、数カ月後に根元から生えてくる髪は、同じ時期につくられたものではありません。
そのため、根元から新しく生えてくる髪の状態が少しずつ変化していても、毛先には以前の時期に生えた髪が残っていることがあります。
根元の髪質が落ち着いてきても、毛先に強いクセや縮れた部分が残っていれば、髪全体はまだ元に戻っていないように見えるでしょう。
「髪質が元に戻ること」と「元の日常に戻ること」は別です
抗がん剤治療後の髪について考えるとき、「元に戻る」という言葉には、いくつかの意味が含まれています。
- 治療前と同じ髪質へ戻ること
- 以前と同じ長さまで伸びること
- 自毛だけで髪型を作れるようになること
- ウィッグを外して外出できるようになること
- 毎朝、自分で扱える髪になること
- 仕事や学校で髪を気にしすぎなくなること
髪質が治療前と完全に同じにならなくても、今ある髪を生かしながら、自毛で髪型を作り、日常を過ごしやすくする方法を考えることはできます。
回復美容が目指しているのは、髪を治療前の状態へ完全に戻すことではありません。
今生えている髪を生かしながら、扱いやすく、人と会うときにも髪を気にしすぎずに過ごせる状態へ近づけていくことです。
「縮毛矯正ができること」と「髪型を作れること」は別です
ケモカールの強いクセや広がりに悩んでいると、髪が短い時期から縮毛矯正をかけたいと思うかもしれません。
縮毛矯正によってクセを整えられることと、その施術によって希望する髪型を作れることは別です。
髪が短い段階では、クセを伸ばせても、前髪やトップの長さが足りず、完成した髪型を作れない場合があります。縮毛矯正をかけたからといって、すぐにフルウィッグを外せるとは限りません。
また、治療後の髪は、部分によって太さや薬剤への反応が異なることがあります。髪の状態を見ずに施術を急げば、現在ある毛髪体力を必要以上に削ってしまう可能性があります。
しかし、完成した髪型をまだ作れないからといって、縮毛矯正に意味がないわけではありません。
髪型を完成させることと、今の生活を楽にすることは、別の目的だからです。
10カ月前後でも、縮毛矯正で生活を楽にできる場合があります
抗がん剤治療後、本当に髪の扱いに困り始めるのは、治療終了から10カ月前後のことが多くあります。
髪が伸びてきた喜びがある一方で、ケモカールによるボリュームが強くなり、自分では抑えられなくなってくる時期です。
この時期の縮毛矯正は、完成した髪型を作るためだけに行うものではありません。
- フルウィッグの内側で髪が膨らむのを抑える
- ウィッグの浮きやずれを減らす
- 自宅でウィッグを外したときの扱いを楽にする
- ケモカールとトップピースをなじみやすくする
- フルウィッグからトップピースへ移行する
このような生活上の困りごとを軽くすることを目的に、髪の状態によっては縮毛矯正を行える場合があります。
ただし、「10カ月経てば誰でも縮毛矯正ができる」という意味ではありません。
再生毛の太さや長さ、頭皮の状態、現在の治療状況、カラーなどの履歴、薬剤と熱に耐えられる毛髪体力を確認し、今の髪に無理がないかを見ながら判断します。
10カ月前後と2年前後では、縮毛矯正の目的が違います
| 時期の目安 | 縮毛矯正の目的 | 目指す変化 |
|---|---|---|
| 10カ月前後 | ケモカールによる生活上の負担を減らす | フルウィッグの収まり、自宅での扱いやすさ、トップピースへの移行 |
| 2年前後 トップが耳に届く長さ | 自毛で成立する髪型を作る | フォルム、扱いやすさ、自毛での外出、仕上がりへの満足度 |
CISTAが自毛で成立する髪型を作るための縮毛矯正の目安としているのは、ラストケモから2年前後が経過し、トップの髪が耳に届く長さになった頃です。
2年という目安は、それ以前には縮毛矯正ができないという意味ではありません。
縮毛矯正によってひとつの髪型を作り、仕上がりへの満足度を担保しやすくなる時期の目安です。
それより前の時期にも、髪の状態と目的によって、カット、ウィッグの調整、トップピース、縮毛矯正などから方法を選べる場合があります。
髪が育つ途中にも、日常を整える方法があります
髪が十分な長さになるまで、ただ我慢する必要はありません。
- 伸びるのが早い襟足やもみあげをカットする
- 今ある長さでまとまりやすい形へ整える
- 髪と頭皮に負担をかけすぎないホームケアへ見直す
- 全頭ウィッグの収まりを調整する
- トップピースで足りない長さや毛量を補う
- 必要な場面だけウィッグや帽子を取り入れる
- 髪の状態に応じて、生活を楽にするための縮毛矯正を検討する
特に前髪やトップ、顔まわりの長さや毛量が足りない時期には、トップピースが、自毛だけで髪型を作れるようになるまでの橋渡しになることがあります。
強いケモカールとトップピースがなじみにくい場合は、自毛のクセを縮毛矯正で整えることで、自然に合わせやすくなることもあります。
トップピースを使うことは、回復が遅れていることでも、以前の段階へ戻ることでもありません。
今の髪だけでは足りない部分を補いながら、髪が育つ時間も生活しやすくするための選択肢です。
CISTAが縮毛矯正を判断するときに確認すること
CISTAでは、治療終了からの期間だけで縮毛矯正の可否を決めていません。
最初に確認するのは、今回の縮毛矯正で何を目指すのかということです。
ウィッグの収まりをよくしたいのか。
自宅で過ごすときの髪を扱いやすくしたいのか。
トップピースへ移行したいのか。
自毛だけで成立する髪型を作りたいのか。
目的によって、必要な長さや施術範囲、目指せる仕上がりは変わります。
そのうえで、次のような点を確認します。
- 最後の抗がん剤治療からの経過
- 髪の太さと密度
- クセやチリつきの強さ
- 頭の場所による髪質の違い
- 前髪、トップ、顔まわりの長さ
- 現在の毛量と、作れるヘアスタイル
- カラーやセルフカラーなどの施術履歴
- 髪と頭皮の状態
- 薬剤と熱に耐えられる毛髪体力が残っているか
その結果、縮毛矯正を行える場合もあれば、カットやトップピースを勧める場合、今回は施術せず髪が育つのを待つ場合もあります。
施術をしないことは、何もできないという意味ではありません。
今ある髪を守り、次にできることを残すための、積極的な「やらない判断」です。
回復美容で、できること・できないこと
髪の長さと毛髪体力が施術に適していれば、縮毛矯正によって強いクセや広がりを扱いやすくできる可能性があります。
回復美容では、縮毛矯正だけを答えにするのではありません。現在の髪の状態と生活の中で困っていることに合わせて、カット、カラー、ウィッグ、トップピース、ホームケアなどから、その時期にできる方法を選びます。
回復美容で目指せること
- 強く波打つクセや広がりを扱いやすくする
- 前髪を下ろしやすくする
- 後頭部や襟足のボリュームを整える
- 乾かしたときのシルエットを小さくする
- フルウィッグの収まりをよくする
- トップピースと自毛をなじみやすくする
- 自毛で過ごしやすい髪型へ近づける
回復美容でも約束できないこと
- 治療前とまったく同じ髪質へ戻すこと
- 一度の施術ですべての質感を均一にすること
- まだ伸びていない部分の長さや毛量を補うこと
- 一定の期間が経過すれば、必ず施術できること
- 縮毛矯正だけで、長さの足りない髪を完成した髪型にすること
- 一度損傷した髪を元の状態へ戻すこと
回復美容は、治療前の髪をそのまま再現する施術ではありません。
今ある髪に何ができるのかを見極め、日常の中で扱いやすい状態へ整えていくための美容技術です。
髪が元に戻るのを待つだけではなく、今ある髪と向き合う
抗がん剤治療後の髪が、治療前とまったく同じ状態へ戻るかどうかを、事前に正確に予測することはできません。
時間とともに以前の髪質へ近づく方もいれば、クセや細さ、毛量の変化が長く続く方もいます。
だからこそ、「元に戻るまで待つ」だけではなく、その時点の髪で何ができるのかを考えることが大切です。
今はウィッグを使いながら、髪を育てる時期なのか。
カットでウィッグの収まりをよくする時期なのか。
縮毛矯正でケモカールを整え、トップピースへ移行する時期なのか。
自毛で成立する髪型を作る段階に入っているのか。
髪の現在地と、生活の中で困っていることによって、選べる方法は変わります。
今できることと、まだしない方がよいことを見分け、その先の生活まで考える。
それが、CISTAの考える回復美容です。
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